「積極的棄権」についての考察
「積極的棄権」という言葉があります。
選挙で特に投票したい候補者がいない場合に、選挙に行かないことで、反対の意志を表明することです。
文化人と呼ばれるような立派な人たちが薦めているやり方で、政治的意志の表明の仕方のひとつとされてきました。今回もマスコミやウェブでしばしば積極的棄権の呼びかけを目にします。
ですが、これって本当に正しいやりかたなのでしょうか。
お店にたとえて考えてみましょう。何のお店でもいいです。仮に定食屋にしましょうか。その定食屋の出す昼飯がまあまあの出来だったりします。量も値段もいいが、味はそこそこ。そういう場合に、もっと味を良くして貰いたいお客ーーこれを貴方と想定しましょうーーは、どういう行動を取るのが正しいでしょうか。「そのお店に行かないようにする」。なるほど。それもひとつの選択肢のように見えます。もしそれでお店がつぶれるのであれば。しかし、まあそのお店はそこそこのお客が来るとしましょう。貴方が行かなくても潰れません。でも、そのお客の数はお店の目標値の半分くらいです。
ここで<Q1>です。
量も値段もいいが、味はそこそこの定食屋。客足はまあまあ。味を改善してもらいたい貴方は、お店に行かないことにした。この場合、もっとお客を増やすしたいと考えているお店側のアクションは、どのようなものが考えられるでしょうか。
…………
一番手っ取り早いのは、今来ているお客さんに、どうしたら良いか改善策を募ることです。そこで来ているお客は、量と安さを求めて来ていることが想定されますから、量と安さが強化されることになり、味については放置されることになります。
ですから回答<A1>です。定食屋の量と安さが改善される。味は放置されるか、下がる。
味を改善してもらいたかった貴方の意見が採用されることはありません。何故なら、貴方はもうその「お店のお客」ではないからです。マーケティングのターゲットからみずから外れてしまったのです。
もう少し思考実験を続けましょうか。<Q2>です。
たとえば、貴方が選挙を運営する官僚のひとりだったとします。与えられる情報は、「投票率、当選・落選した人が得た票数・白票/無効票の数」。これらの情報から、「積極的棄権」をした人の多寡とその人の考えを分析しなさい、という課題を与えられたらどうしますか?
…………
当選・落選した人や党の傾向から、支持されている政党や政策の傾向はわかります。白票/無効票の数から、選挙に不満だった人がわかります。投票率から、選挙への関心の有無がわかります。では積極的棄権については? 数も、その人の思いも、マスデータとしてわからないんですね。もちろん現在はSNSが発達していますから、ブログ等で意見は取れますが、母数が少ないミクロ情報ですので、参考情報程度の扱いでしょう。マスコミ? 偏向報道の実情は、皆さんご存知の通りです。複数のメディアをチェックして、偏向バイアスがどの程度なのか見極めないと使えない情報ばかりです。
回答<A2>です。「データ不足により判定不能」。マスデータからは、ただのサボりと積極的棄権は、外面上は区別がつかない。調査したとしても、ミクロデータは参考情報以上にはならない。
以上より、「積極的棄権」という戦術は、有権者の意見を為政者に届けるのに、とても効率の悪いやり方だと考えられます。
棄権するほど不満があるのなら、自分が立候補して議員になって政治を変える、という選択肢もあるのです。日本は民主政治の国ですから。むしろそちらのほうが有効で自然な対策です。
誰が総理になっても同じだ…なんていう時代がありましたが、そのときはそれだけ人材が豊富だったということだと思っています。誰でも同じだと思って批判の上手な人を大臣に据えてみたら、株価が半分の8000円台になって投資は抑えられ仕事がなくなり新卒の人たちは就職できず、大災害が起こってもうまく救援対処ができず、外国からは侮られて領土侵犯が繰り返される……なんて年代がありました。ほんの10年前かそこらの話です。
何かを変えたい、あるいは、何かを維持していきたいなら、とにかく自分の意見を表明することが第一歩だと考えています。
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