戦略的高地について めも
今日は「戦略的高地」について書きます。
特殊用語だしニーズはあんまり無いと思うけれど…こういうのが好きなので。
他にも好きな方がいるかも知れないし。
意外に奥深い概念なんですよ。
さて、早速、孫子の引用から。
孫子 行軍篇 40
軍は高きを好みて下(ひく)きを悪(にく)み ・・・
… 軍を布陣するときは、高いところが好ましく、低いところは避ける
孫子 行軍篇 1
隆(たか)きにおいては登ることなかれ
… (山岳戦においては)、高いところの敵を攻撃してはならない
古代の兵法書で古典でもある、「孫子」に上のように記されている。要は、高いところにいたほうが有利だ、ということだ。この「有利な高いところ」を「戦略的高地」と現代では呼んでいる。
古代の戦争においては、低いところよりも高いところの方が有利だった。
これは言わなくてもなんとなく想像できると思うが、これはもう上から攻撃するほうが断然有利だ。古代の戦争では刀剣、槍、弓矢、騎馬が主力武器。それらの武器を持って兵士同士が肉弾戦を演じるのだ。
上から下に攻撃するとき、矢は上からのほうが遠く届くし、敵の姿が見えやすいので命中率も良い。上から巨石や巨木を落として、攻撃に変化をつけることもできる。また、兵士を突撃させる場合も、下からの攻撃だと、坂を登らなければいけないので、どうしても勢いがつかない。逆に降りるほうは勢いをつけられるので、上のほうが有利だ。
そして下の敵の動きは、上からは丸見えになる。下の敵の陣形に合わせて、上側の軍は、下側の敵の弱点をつくように攻撃してやればいい。それは将官レベルだけでなく、個々の兵士にもまるわかりだっただろう。
このように、下から上へ攻撃する場合を比べると、上から下に攻撃するほうが、より有利に効率的に戦うことができる。
なので、古代の戦争においても、ポジション取りが大事だったというわけだ。
戦略的高地・現代
軍事的に「高いところは低いところより有利」という概念は、武器がピストルやミサイルへと様変わりした現代でも、実は通用する。
わかりやすいのは飛行機の発展だ。第一次大戦で実戦投入された飛行機は、空から爆弾を落とすことで、地上戦の勝敗を分けた。第二次大戦では、飛行機が進化し、前時代の飛行機のさらに高い空(超高度)を飛べる飛行機が開発された。飛行機同士の戦いでも、高いところにいる飛行機のほうが有利だった。
当時、エンジンでプロペラを回し本体を推進させるタイプの飛行機だったわけだが、上空に行けばいくほど、空気・酸素が薄くなる。空気が薄くなることでプロペラの推進力がさがり、酸素が減ることでエンジン内の燃焼効率が悪くなって、エンジンの回転が落ちる。この二重苦で飛行機が飛べる高度が決まっていた。飛行機がこの技術的課題を少しずつ解決していくのにだいたい30年ほどを要したわけだ。(なお、ライト兄弟が空を飛んだのが1903年、リンドバーグの大西洋無着陸飛行が1927年、零戦の制式採用が1940年)
空を取られると、地上戦はほとんど意味をなさない。なので制空権という概念が成立し、制空権の有無が戦争の勝敗をわけるようになった。
山から空へとあがった現戦略的高地は、20世紀後半から21世紀にかけて、さらに高地にあがった。次の舞台は宇宙になった。具体的には、人工衛星軌道だ。1991年の湾岸戦争では、米国の衛生監視システムが強力に機能した。(参考:米中もし戦わば ピーター・ナヴァロ著)
21世紀の今、もはや基本インフラになったインターネットやGPSを支える基幹システムは、さらに高度に発達した人工衛星ネットワークだ。
もしこの人工衛星ネットワークよりもより高い戦略的高地を押さえることができた国は、次の時代の軍事的優位を持つことができるだろう。
次世代の戦略的高地は、宇宙ステーションや月基地になる。米国・中国・露国が先を争って宇宙開発を進めているのは、人類のロマンと栄光を追い求めているだけでなく、次世代の軍事戦略を見越してのことなのだということは、知っておいて損はない。
ところで、戦略的高地・概念
ただの事実だけではもったいないので、日常生活でも応用するために、戦略的高地の価値を、抽象度をあげて概念として考えてみた。
まず、古代の戦争を例にして考え、それから抽象化しよう。
高いところから低いところに攻撃するとき、「矢が遠く届いたり、巨石で攻撃できる」という有利があった。ということは、→攻撃範囲・手法が広がる→戦略的自由を得られる
ということである。
もうひとつ、「上から見ると、下の敵の動きが丸見え」という有利もあった。これは、→有利な情報がたくさん集まる→情報で優位に立てる
ということである。
つまり、戦略的高地とは、そのポジションを取ることで、
1.戦略的自由を得られる
2.情報で優位に立てる
のメリットがある場所だといえる。
なので、物理的に高い場所に限らず、組織の上層部、プロジェクトの上流も抽象的に言えば戦略的高地と言える。
上司が部下に意見を通しやすかったり、プロジェクトの企画部門からスタッフ部へ指示ができるのに、この逆がやりにくいのは、ポジション取りによる効果だと言えるかも知れない。
もっと考えを進めて、身も蓋もない言い方をしてしまえば、主導権を取りやすい場所が戦略的高地だと言える。
普段の生活を考えて、自分は戦略的高地にいるかどうかを考えてみて、自分の置かれている環境の有利不利を一度分析してみるのも楽しいかも知れない。