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「メモの魔力」は発想術の書

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知っている人は知っていると思うけれど、Showroom取締役の前田裕二さんという人が、昨年末に「メモの魔力」本を出した。前田さんは石原さとみの恋人のIT社長としても有名な人だ。ネットを見ない人でも、TVコメンテーターとして出演したりしているので、知っている人もきっと多いのではないかと思う。

「メモの魔力」というタイトルを見るとメモ術のようだけど、もう一歩踏み込んだ大変有用な本だったので、紹介したい。発想を豊かにしたい人や、クリエイティブな仕事や活動をしている人にはうってつけだ。

 

一般に言われているメモの役割

 

一般的にメモの役割は「忘れないようにする」ことだ。記憶だけだと忘れてしまうので、紙に書いておくわけだ。おつかいリストとか。

「記憶の外部保管」なんていう洒落た言い方をする人がいるし、メモをするのは「忘れるためだ」という人もいる。紙に書いたらもう脳に情報を保管しておく必要が無いから、脳のリソースを記憶から開放し、その分を思考に割り振ることができ、効率があがる・・・というわけ。

 

「メモで日常をアイデアに変える」「メモで思考を深める」

 

前田さんの立場は、従来のメモ術とは一線を画する。

彼はメモを取ることで日常をアイデアの宝庫に変え、メモで思考を深めるのだといい、さらにメモは人生における姿勢・生き方だとまで言い切る。ここだけ切り取ってしまうと飛躍があるように感じられるけれど、実際に本を読んでいるとなるほどと思えるのが不思議なところだ。

 

「メモで思考を深める」とは?

 

ここが最重要ポイントなので、繰り返します。僕のメモ術のエッセンスは、シンプルに3点です。
①インプットした「ファクト」をもとに、
②気づきを応用可能な粒度に「抽象化」し、
③自らのアクションに「転用」する。

 

前田さんはメモする事柄をみっつにわける。ひとつはファクト。次に抽象化。最後に転用だ。

どういうことかというと、まず「ファクト(fact)」は文字通り事実のことだ。

例えば、”コンビニAのスイーツをツイッターでよく見かける” などと書く。

 そして、ファクト以降が重要だ。

「抽象化」は、ファクトで書いたことの本質を書く。事実の再解釈をする、といってもいいだろう。眼の前で起こっていることに対して、考察を加える。

例)”コンビニAのスイーツは手軽に買えて美味しいから取り上げやすいし、拡散しやすい”

最後の「転用」は、抽象化した事柄をまた具体的な行動に焼き直すという作業だ。メモをとっただけでは何の意味を持たず、メモを通して学んだことが、実際に自分の行動に反映されなければ意味がない、というのが前田さんの考え方だ。まさに実践者。

例)”自分も美味しいコンビニスイーツをツイートすれば、いいねをもらえるかも”

 

 

抽象化がキモ

 

ここまで記事を読んで、勘の良い方はお気づきだと思うが、このメモ術は抽象化がキモだ。ファクトから質の良い抽象化できるかどうかで効果が格段に違う。

抽象化とは、端的に言うと、「具体的な事象の本質を考える」ことです。

抽象化とはつまり、思考を深めることだ。その目的は、再現性・汎用性を見出すこと。汎用性が高ければ高いほど、他のことに転用できる可能性があがり、効果は高まる。

じゃあどうすれば良いのか。というところも言及がある。やり方はやはり3つある。

例えば、目の前の現象や考え方を抽象化して、また別の名前をつけて呼び直す。これは「What型」と呼べるでしょう。一方で、目の前の現象にはどんな特徴があるか、ということを深掘りして考える。これは「How型」と呼びます。そして、ヒット映画があたった理由を抽出して、また別の企画に転用したい。このとき僕らは自分の心に、「Why?」と問うでしょう

 3つのうち、「How型」と「Why型」は抽象化できれば価値がより高いそうです。転用の幅が広がり、また転用したときのインパクトが大きいのだそうです。

 

 

終わりに。自分の中に課題があればより効果が期待できる。

 

具体的な課題が自分の中にないと、特に抽象化するモチベーションはあまり湧かないでしょう。そういった意味で、この、「解くべき課題の明確化」は、抽象化の前段階において、ビジネスパーソンがまず向き合わねばならない問題かも知れません。

 

自分の中に解きたい課題を持っていないと、この発想術は使いにくい。無目的に考えても、抽象化の指針がつかみにくいのです。まあ現状に不満のない人は、どんなメソッドもそもそも不要ということなんだけど。

問題意識を高く持って生きることが大切ということですな。

 

ところで、村上春樹スプートニクの恋人」で、すみれという女性が登場する。この女性は独白の中で、「自分は書かなければ思考できない。書くことで初めて思考できる」と言っていた。

すみれほどじゃないだろうけれど、頭の中だけでは思考が深まらない。書くことで、つまり明確に言語化することで、考えが深まる。その考えを深めるための手法を可能な限り仕組み化して一般化したのが、この「メモの魔術」だと感じた。

思考をするとニューロン回路に微弱な電流が走り、その経路が思考アルゴリズムだという。しかし、普通、何をどう考えているか、他人の頭の中は覗けない。逆に、他人に自分の思考を伝えようとしても、すべて伝えることは難しい。そして、伝える手段は言語しかないことに気づくだろう。考えていることをすべて伝えるのに、言語では不十分だということにも気がつく。

そう考えると、思考アルゴリズムを極限まで物質化し、メモというメソッドに落とし込んでくれた前田さんの存在が、とても貴重だと思えた。