【希望の国のエクソダス】
この国にはなんでもあります。本当にいろいろなものがある。ただ、希望だけがない。
2002年、失業率は7%を超え、円が150円まで下落した日本経済を背景に、パキスタンで地雷処理に従事する16歳の少年「ナマムギ」の存在を引き金にして、日本の中学生80万人がいっせいに不登校を始める。彼らのネットワーク「ASUNARO」は、ベルギーのニュース配信会社と組んで巨額の資金を手にし、国際金融資本と闘い、やがて北海道で地域通貨を発行するまでに成長していく。
村上龍の小説、『希望の国のエクソダス』。2002年以降の現代日本が舞台の小説だが、実際は2000年に初版が出ている。だからこの本は近未来小説として世に出ているのだが、この本が未来予測の本でもあると気がついた。
未来予測の本と言えば、フランス大統領の助言役(当時)であるジャック・アタリの『21世紀の歴史――未来の人類から見た世界』が有名だ。もちろんノストラダムスのような科学的な根拠のない予言ではなく、世界史を俯瞰することで歴史の法則性を見出し、そこに各国の政治・軍事・技術の現状を当てはめることで、数十年先の未来を予見している。相当勉強になるのでおすすめだ。
『21世紀の歴史』のように膨大な知識に裏打ちされた分析本が未来予測の本としては普通の形態なのだが、『希望の国のエクソダス』は小説、フィクションである。それが2018年の現代から見ても、正しいことを言っているので驚く。
この小説は、2000年頃の閉塞的な日本の大人たちへ中学生から批判を浴びせる本だ。このあたりは時代だなと思うのだが、同時に、未来予測の本でもある。特に最後の50ページに目を通してもらえると面白いことがわかるだろう。2018年の今、予言されているものが現実世界に登場していることがわかる。
箇条書きであげれば、インターネットコミュニティのマネタイズ。ゆるやかなコニュニティの創出。仮想通貨決済。資本を使った自治体の乗っ取り。エネルギーを押さえる。企業誘致。集団移住。ひとつの経済圏の創出。新たな文化圏の創出。国家という構造そのものへのアンチテーゼ、疑問。私設タスクフォース。
村上龍はよほど丁寧に取材をしてこの小説を書き上げたのだろう。ひとつの未来のかたちを見事に予見している。上に書いたものでも、インターネットコミュニティのマネタイズや、ビットコインなど仮想通貨決済は、既に実現している。
重要なことは、この小説に書いてあることで実現していないことの一部は、現実になるかも知れないということだ。人は想像した範囲でしか動くことができないが、逆に言えば想像したことは現実になる可能性を秘めているということでもある。
未来に何が起こり得るかを知っているのと知らないのとでは、日頃の情報に対するアンテナの張り方が違ってくる。今後起こるかも知れないことの知識がないために、ひょっとしたら現在の超重要な情報を取り逃しているかも知れない。せめて『希望の国のエクソダス』に目を通しておくべき。余裕がある人は『21世紀の歴史』も見ておくといいかも。