この世はしょせん夢芝居

考えたことをエッセイに書いてます。本の紹介もしています。目指しているのは「ゆるふわなチラ裏」。

「ほぼ日」上場 糸井重里さんとシェアするもの

株式取引は美人投票と同じだと言われます。

 

これは結構皮肉な意味合いがあって、取引参加者は自分が美人だと思う人、に投票するんじゃないそうです。周囲をよく見て、皆が美人だと思いそうな人、つまり票が集まりやすそうな人に投票するんだそうです。株式取引では、票が集まれば集まるほど、値が高くなり自分がトクをするわけですから、まさに経済的で合理的な行動というわけです。

 


糸井重里さんの「ほぼ日」が、3月16日、ジャスダック証券取引所に上場しました。ものすごい人気で、初日は「ほぼ日株」の値段がつかなかったということです。すごいですよね。

 

「ほぼ日」はなんの会社なのか、僕は正直よくわかっていません。わかっているのは、超が付くほどの有名コピーライターの糸井重里さんが、乗組員と呼ばれる社員を集めて、イベントや調査を通して何か面白そうなことを探している、ということです。活動はこれも有名な「ほぼ日刊イトイ新聞(http://www.1101.com/home.html)」で見ることができる。けれど、サイトを見て何をやっているかはわかりますが、どうやって儲けを出しているのかまったく推測できません。わかりやすい「儲ける事業」は、物販企画です。といっても、従業員が養えるほど売上があるのか疑問な企画も多いです。お値段もだいたい良心的で、損益分岐点も高そう。でも物販企画のひとつ「ほぼ日手帳」は人気があるのはわかります(毎年リピート販売しているから。少なくとも赤字企画じゃないことは推察できる)。じゃあ「ほぼ日」が文房具屋さんなのかと言われると、もちろん違う。

 

とらえどころのない会社、どれほど株主に配当をくれるかわからない会社ですが、新規上場時の人気は絶大。なぜでしょう。

 

ところで、インターネットの登場でコンテンツビジネスはがらりと変わりました。たとえば月額を支払うことでマンガが読み放題になったり、CDを買わなくても音楽聴き放題のサービスがあります。消費者は、これまでマンガや音楽それ自体を所有するためにお金を払っていました。しかし、今の消費者は、大量のマンガや音楽が音楽が蓄積されているデーターベースへの「アクセス権」にお金を払っています。何が言いたいのかといえば、僕たちは無意識のうちに、何のためにお金を払うかが変わっています。価値観が変わってしまっていると言ってもいいでしょう。その変化はゆっくりと行われているので、自分では気がつかないかも知れない。売る側も、できるだけ旧来の商慣習に合わせてサービスを売ろうとしている。でも、新しい技術が登場したのに、新しい考え方が発生しないということは無いのでしょう。

 

無限のコピーが可能で、受け手が作り手に容易に入れ替わることのできるインターネットの世界で、無料のコンテンツが増えました。音楽・文章・イラスト…。アマチュアでもレベルが高いものもありますし、一部のプロ作品も無料で視聴することができたりします。コンテンツの価値は下落しました。

 

しかし、一方で、この動きにはきちんと反動があります。一部のファンは、支持するクリエイターのためにきちんとお金を支払いたいと考えたのです。あるクリエイターを支持する。その支持をかたちにするために、「お金」を投じ、クリエイターをサポートする。いわゆるパトロンみたいなものですが、裕福な資産家でなくても、あるいは熱狂的なファンでなくても、割と気軽に、クリエイターへの支援、いえもっと気軽に「応援」という形で、お金を支払いたい人が発生しています。(僕もそういう人種です)

 

ケヴィン・ケリーさんは 〈インターネット〉の次に来るもの 未来を決める12の法則でこんなことを言っています。

 

熱心な視聴者やファンは心の中ではクリエーターにお金を払いたいと思っている。ファンはアーティストやミュージシャン、作家、役者などに、感謝の印をもって報いたいと思っている。そうすることで、自分が高く評価する人々つながることができるからだ。…中略…アーティストがファンに無料のコピーの対価として好きな金額を払ってもらう投げ銭制の実験が、そこかしこで始まっている。その方式は基本的に機能している。これこそ、支援者の力を典型的に表すものだ。感謝を示すファンとアーティストの間に流れるとらえどころのない結び付きは、確実に価値がある。


思うのですが、「ほぼ日」の株を購入したひとは、きっと「糸井さん」か「ほぼ日」のファンだったんじゃないのかなあ。「ほぼ日」の株を買って、儲けようなんて考えていない。より儲けるためにお金を払う、そういう資本主義的な発想はしない人が、「ほぼ日」の株を買った人に混じっているんじゃないでしょうか。例えていうなら、自分が美人だと思ったら素直にそのまま投票できる人が。

 

糸井さんは、インターネット的 (PHP新書)という本でインターネットについて論じています。底本の発行は2001年なのに、2017年の今に読んでも全然古びていない。この本で糸井さんは「リンク・フラット・シェア」がインターネット的なものの特徴だと喝破しています。株を買ったひとたちにとって、「ほぼ日」株を買うことは、糸井さんと『何か』をシェアすることだと考えたんじゃないかなぁ。

 


今日も当ブログにお越しいただき、ありがとうございました。