つらいとき、「あえて」乗り越えない。という考え方。
羽生結弦選手が、「情熱大陸」に出演したときのこと(2016年4月)。
インタビューで、こんなやりとりがありました。
――つらいときはどうやって乗り越える?
「あー、もう乗り越えようとしないです。つらいものはつらい、認めちゃう。つらいからもうやりたくないんだったら、やめればいいし。それでいいと思ってます、僕は」
これ、どういう意味なんだろう?
普通、大体の一流スポーツ選手は、つらい経験を持っていて、それを努力とか周りのサポートとかそういうもので乗り越えて、一流になるものだ。でも超一流のスケーターである羽生結弦さんは、つらいときは乗り越えようとしない。そんな風に言っている。理解できない ーー最初はそう思いました。
スポーツ選手にとってつらいときっていうのは、伸び悩んだり、努力しても結果が出ない、そういう時期のことのことだと思うんですよ。そういうつらいとき、普通の人だったら馬鹿騒ぎしたりお酒を飲んだりしてつらさ、ストレスを発散しちゃう。スポーツ選手だったら、より激しいトレーニングに打ち込んだりするのかも知れません。
けれど、羽生結弦さんはそれをしない。つらさをつらさのままで受け止めるという。個人的な見解ですけど、つらいということは、ときに自分が未熟だという証になります。未熟であることから目を背けても、問題は解決されない。しかも大概問題の解決には時間がかかる。だから、ゆっくりと力が伸びて、問題が解決できるまでの間、自分のつらさと向き合うしかない。
つらさというものは、ときに自分の成長を促す糧になります。
そのときわたしが思い出したのは、ケリー・マクゴナル女史の言葉でした。
スタンフォード大のケリー・マクゴナル女史によれば、「ストレスは悪いばかりではなく、良い面もある」。例えば、ストレスを感じることで、普段よりも注意力や集中力が高まったり、社会性が高まったりするそうです。
「過去のつらい経験を受け入れようと思った人たちは、幸福感が増してストレス抵抗が強化される。自分のつらかった経験を振り返って、あえてよい面を見つめることは、ストレスとの付き合い方を変えるのに役立つ。過去の逆境を受け入れることは、今の苦しい経験を通して成長するための、勇気を奮い立たせるきっかけになる」
きっと羽生結弦さんはこのことを経験的に知っているのではと思います。だからつらさを安易にまぎらわしたりごまかしたりせずに、まっすぐにつらいことに向き合う。でもそうは言っても、つらいことをつらいまま抱えて生きて行くのは、やっぱり大変なことです。そして羽生結弦さんは真面目そうなので、つらいことをじっと直視しながら生きていそうなんですよね。
想像するに、自分の成長の糧はひとつもとりこぼさないぞ、というような貪欲さの反射なのでしょうか。でも、つらいことに向き合い続ける大変さが減るわけではないので、やはり精神力がものすごいんでしょうね。
でもインタビューでは、”つらいときはやめればいい”と自ら逃げ道も残しています。そこのあたりが柔軟で、脆弱さよりもしなやかな強靭さを感じますね。マジイケメン。
You Tubeに動画がありました。
情熱大陸 フィギュアスケーター・羽生結弦に密着!160410 - YouTube
くだんのケリー・マクゴナル女史の本。
2018.3.3追記:羽生結弦選手は、2018年2月の平昌(ピョンチャン)オリンピックの男子フィギュアシングルで、怪我のハンデに耐えながら、みごと金メダルを獲得しました。おめでとうございます。